BeRealの情報漏洩で損害賠償は発生する?従業員の法的責任と企業の対応

BeReal(ビーリアル)は、通知から短時間以内に前面・背面カメラで同時撮影して投稿するという特性を持つSNSです。この仕組みゆえに、勤務中の投稿でオフィスのモニターや会議資料、顧客情報などが意図せず写り込み、情報漏洩につながる事例が問題視されています。従業員がBeRealへの投稿で会社の機密情報を漏洩させた場合、その従業員は損害賠償責任や懲戒処分の対象となり得るのでしょうか。本記事では、人事担当者や経営者の方に向けて、BeRealによる情報漏洩で従業員が負いうる法的責任の考え方、企業から従業員への賠償請求(求償)が制限され得る点、そして企業が講じるべき予防策を、一般論として解説します。

BeRealの特性がなぜ情報漏洩と損害賠償の問題につながるのか

BeRealは「ありのままの日常を共有する」ことをコンセプトとし、1日1回ランダムな時間に通知が届き、原則としてその直後に撮影・投稿することが推奨される設計になっています。この即時性こそが、他のSNSと比べて情報漏洩リスクを高める要因と考えられます。投稿前に写り込みを落ち着いて確認する余裕がなく、さらに前面と背面のカメラで同時に撮影されるため、投稿者本人が意識していない背景情報まで記録されてしまうからです。

二面カメラと即時撮影が生む「意図しない写り込み」

通常のSNSであれば、撮影後に写真を確認してから投稿できますが、BeRealでは通知後の限られた時間内に投稿しようとする心理が働き、確認が疎かになりがちです。その結果、PC画面上の顧客リストやメール、ホワイトボードの営業戦略、机上の契約書などが写り込んだまま公開される事態が起こり得ます。本人に漏洩の意図がなくても、客観的には機密情報の外部流出となる点が、この問題の難しさです。

「友達限定」でも漏洩リスクは消えない

BeRealの投稿は基本的に友達に共有される仕組みですが、友達がスクリーンショットを撮って別のSNSに転載することは技術的に防げません。また、公開範囲の設定によっては、面識のない第三者にまで投稿が表示される可能性も指摘されています。「限定公開だから大丈夫」という従業員の認識と、実際の拡散リスクとの間には大きなギャップがあると考えられます。

勤務中の投稿が企業リスクに直結する構造

通知が就業時間中に届けば、職場で撮影する従業員が一定数出てくることは避けられません。オフィス、店舗のバックヤード、工場、医療機関など、業種を問わず職場には外部に出せない情報が存在します。BeRealの仕組み上、勤務中の投稿はそのまま職場環境の撮影・公開につながりやすく、企業にとって看過できないリスク構造となっています。

BeRealでの情報漏洩により従業員が負いうる損害賠償責任

従業員がBeRealへの投稿によって会社の機密情報や顧客の個人情報を漏洩させ、会社に損害が生じた場合、従業員は民事上の損害賠償責任を問われる可能性があると考えられます。法的な根拠としては、主に債務不履行責任と不法行為責任の二つが挙げられます。ただし、実際に責任が認められるか、どの範囲で認められるかは個別の事案によります。

債務不履行責任(労働契約上の義務違反)

従業員は労働契約に基づき、信義則上の付随義務として、業務上知り得た会社の秘密を漏らさない秘密保持義務を負うと一般に解されています。就業規則や誓約書で秘密保持義務が明示されていれば、その根拠はより明確になります。BeRealへの投稿で機密情報を流出させた行為がこの義務に違反すると評価されれば、民法第415条の債務不履行として、会社に生じた損害の賠償責任を負う可能性があると考えられます。

不法行為責任(民法第709条)

故意または過失によって会社の権利や利益を侵害し損害を与えた場合には、民法第709条の不法行為責任が問題となり得ます。BeRealの事案では「うっかり写り込んだ」という過失型が多いと想定されますが、過失であっても不法行為は成立し得るため、意図的な漏洩でなければ責任を負わない、というわけではない点に留意が必要です。もっとも、故意による漏洩か過失による漏洩かは、賠償額の判断や後述する懲戒処分の重さに影響する重要な要素と考えられます。

賠償の対象となり得る損害の範囲

企業側に生じる損害としては、漏洩した顧客への謝罪・補償費用、調査費用、システムや運用の改善費用、取引停止による逸失利益、信用毀損などが考えられます。ただし、従業員に賠償請求できるのは、義務違反行為と相当因果関係のある損害に限られ、さらに次章で述べるとおり、判例上その範囲は大きく制限され得ます。

企業から従業員への賠償請求(求償)は制限され得る

従業員の投稿が原因で会社が損害を被ったとしても、会社がその全額を従業員に請求できるとは限りません。むしろ判例の傾向としては、従業員への損害賠償請求や求償は、信義則を根拠に相当程度制限されるのが一般的です。この点は、企業側が対応を検討するうえで正確に理解しておくべき重要なポイントです。

判例が示す「損害の公平な分担」の考え方

リーディングケースとされる最高裁判決(いわゆる茨石事件・最高裁昭和51年7月8日判決)では、使用者は事業の性格、規模、労働条件、労働者の勤務態度、加害行為の予防や損失分散についての使用者の配慮の程度などの諸事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度においてのみ、労働者に賠償や求償を請求できるとされました。同事件では、会社の請求額の4分の1の限度でのみ請求が認められています。企業は従業員の労働から利益を得ている以上、事業に伴うリスクも一定程度負担すべきという考え方(報償責任)が背景にあると解されています。

BeReal事案で考慮され得る事情

BeRealによる漏洩は、多くの場合、故意の持ち出しではなく不注意による写り込みという過失型です。判例の枠組みに照らすと、従業員の過失の程度に加えて、会社がSNS利用に関するルールを整備し周知していたか、研修などの教育を行っていたか、職場での撮影を制限する措置を講じていたかといった、会社側の予防体制も考慮され得ると考えられます。会社が何ら対策を講じていなかった場合、従業員への請求が大きく減額される方向に働く可能性があります。

会社が顧客に賠償した場合の求償

従業員の漏洩行為が「事業の執行について」行われたと評価される場合、会社は民法第715条の使用者責任に基づき、被害を受けた顧客等に対して賠償責任を負う可能性があります。会社が顧客に賠償した後、従業員に求償することは制度上可能ですが、この求償もやはり信義則により制限され得るというのが判例の立場です。全額回収を前提とした対応計画は現実的でない場合が多い、と理解しておくのが穏当と考えられます。

損害賠償とあわせて問題となる懲戒処分と刑事・行政上の責任

情報漏洩を起こした従業員への対応としては、民事上の損害賠償だけでなく、社内処分としての懲戒処分が中心的な選択肢となります。また、事案によっては刑事責任や、企業側の行政上の対応義務も関係してきます。

懲戒処分が有効となるための要件

懲戒処分を行うには、就業規則に懲戒事由と処分の種類が定められ、それが従業員に周知されていることが前提となります。そのうえで、労働契約法第15条により、処分は行為の性質・態様に照らして社会通念上相当なものでなければならず、重すぎる処分は無効と判断され得ます。BeRealでの過失による写り込みについて、いきなり懲戒解雇とすることは相当性を欠くと判断される可能性が高く、漏洩した情報の重要性、実害の有無、本人の認識や反省の程度などを踏まえ、けん責や減給などから段階的に検討するのが一般的な考え方です。

処分の前提となる事実調査の重要性

懲戒処分や賠償請求を適法に行うためには、その前提として、いつ・何が・どの範囲に漏洩したのか、本人の故意・過失の程度はどうかといった事実関係を適正な手続きで調査することが不可欠です。憶測に基づく処分や、本人への弁明の機会を与えない処分は、後に処分無効や逆に会社側の責任を問われるリスクにつながります。投稿のスクリーンショットの保全、本人および関係者へのヒアリングなど、記録を残しながら慎重に進めることが求められます。

刑事責任・行政対応が問題となる場合

漏洩した情報が営業秘密に該当し、不正の利益を得る目的等で開示された場合には、不正競争防止法違反として刑事責任が問題となる可能性があります。BeRealの過失型事案でここまで至るケースは限定的と考えられますが、意図的な漏洩との区別のためにも調査は重要です。また、個人データの漏洩時には、個人情報保護法に基づく個人情報保護委員会への報告や本人への通知が企業に義務付けられる場合があります。

企業が講じるべき就業規則の整備と予防策

BeRealをめぐる法的責任の議論を実効性のあるものにし、また漏洩そのものを防ぐためには、事後対応よりも事前の体制整備が重要です。求償が制限され得る判例の枠組みを踏まえると、企業が予防措置を尽くしていたかどうかは、リスク管理と法的評価の両面で意味を持つと考えられます。

就業規則・SNSガイドラインの整備

就業規則に秘密保持義務と、情報漏洩・SNSでの不適切投稿を懲戒事由とする規定を明記し、周知することが出発点です。あわせて、SNS利用ガイドラインにおいて、勤務中・職場内での撮影や投稿の可否、業務情報が写り込む撮影の禁止、違反時の対応などを具体的に定めておくことが望ましいと考えられます。BeRealのような即時撮影型アプリを想定した文言にしておくと、実効性が高まります。
整備項目 主な内容 期待される効果
就業規則 秘密保持義務・懲戒事由の明記と周知 懲戒処分・賠償請求の法的根拠の明確化
SNSガイドライン 職場での撮影・投稿ルールの具体化 過失型漏洩の予防と従業員の予見可能性の確保
研修・教育 写り込みリスクの周知、事例共有 従業員のリスク認識向上、会社の予防措置の証拠化
執務環境の管理 撮影制限区域の設定、画面ロック徹底 写り込み自体の物理的な低減

研修と職場環境による予防

ルールを定めるだけでなく、BeRealの二面カメラや即時投稿の仕組みがなぜ危険なのかを具体例とともに伝える研修が有効です。特に若手従業員の利用率が高いアプリであるため、入社時教育に組み込むことも考えられます。また、機密情報を扱うエリアでの私物スマートフォンの利用制限、離席時の画面ロックの徹底など、写り込みが起きにくい執務環境を整えることも実効的な対策です。

漏洩発覚時の初動体制の準備

万一投稿による漏洩が発覚した場合に備え、投稿の削除要請、影響範囲の調査、関係者ヒアリング、必要に応じた監督官庁への報告や顧客への通知といった初動手順をあらかじめ定めておくことが重要です。初動の巧拙は、損害の拡大防止だけでなく、その後の処分や賠償をめぐる判断の適正さにも直結します。

まとめ

BeRealは即時撮影と二面カメラという特性から、従業員に漏洩の意図がなくても職場の機密情報が写り込みやすいアプリです。漏洩を起こした従業員は、債務不履行責任や不法行為責任として損害賠償責任を負い得るほか、就業規則に基づく懲戒処分の対象ともなり得ます。もっとも、判例上、従業員への賠償請求や求償は損害の公平な分担の見地から制限されるのが一般的であり、全額の回収は難しい場合が多いと考えられます。だからこそ企業には、就業規則やSNSガイドラインの整備、研修、執務環境の管理といった予防策を尽くすことが求められます。実際の対応は個別の事案によって大きく異なるため、重大な事案では弁護士等の専門家に相談しながら、適正な手続きで進めることをおすすめします。 情報漏洩リスクへの備えは、事後対応だけでなく「誰を採用するか」の段階から始まります。企業調査センターでは、採用候補者の経歴確認やSNS利用状況の確認を含むバックグラウンドチェック・企業信用調査を通じて、入社後の情報漏洩やコンプライアンス違反につながり得るリスクの事前把握をお手伝いしています。調査は法令および適正な手続きに配慮して実施いたしますので、採用時のリスク管理体制を強化したい人事担当者・経営者の方は、お気軽にご相談ください。

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